先日、長嶋茂雄さんが他界されました。長嶋さんがいなかったら、王さんも世界のホームラン王になってなかっただろうし、今のようなメジャーリーグで多くの日本人選手が活躍する時代も来てなかったかもしれない。それほどまでに日本の野球界に絶大な影響を与えた方だったと思います。いや、野球界のみならず、昭和の日本を支えた一人であると言っても過言ではないでしょう。
そんな長嶋さんはプレーのみならず、選手時代はもちろんのこと、現役を退かれてからもその独特な言い回し、いわゆる「長嶋節」でも人々を魅了されてきましたね。
「バットを持ったら、グワーッて来て、バーンと打つ!」
松井秀喜さんや、高橋由伸さんなどはまさに愛弟子で、入団当初から長嶋さんにマンツーマンで指導を受けられたようで、そのときもスイングの「音」を聞いて、いい振りなのかよくない振りなのかを判断されていたようです。
ある時は電話口でも「バットを振ってみろ」と言って、素振りをさせ、「今のだよ!」って言ったとか。
つまり、何が言いたいかというと、長嶋さんは言葉にならない、出来ないところに本質があるということを直感的に分かっていたのではないかということです。
今の時代は「言語化」「数値化」「見える化」(「カエル化」は違うか)を求められることが多く、そうしないと理解してもらえない、共有できないと思っている風潮があります。
もちろん、そうすることで見えてくるものは多くあることも分かっていますが、それと同じように見えなくなってしまうものも多くあるということを忘れてはならないと思います。
ようやく最近になって教育の現場でも「非認知能力」「身体知」などという言葉が出始めてきましたが、これらは古くから言われてきた「体で覚える」「肌で感じる」「経験がものをいう」の言い換え。
バランスからだ塾では一般の方向けに「バランスからだ塾 指導者講座」をやっているのですが、その中でも最もバランスからだ塾的に大事にしていることは「ダイレクトな経験」です。
つまり、言葉や数字を介さずに直接的に体で感じることを最重要課題にしているのです。
ここで質問です。「デジタル」ってな-んだ?
急にそう言われると困りますよね?
「電子信号的な?」
と思われた方が多いのではないでしょうか?
一般的には、ラテン語の「指」が語源で、指折り数えたことから「数的なもの」と変化したと言われていますが、「指」から「何かを指し示すもの」→「記号化されたもの」を指していたとも考えられています。
ということは、数字はもちろんのこと、文字や言葉そのものも「デジタル」ということになりますね!
例えば、文字盤があって、長針と短針が回る時計をアナログ時計と呼びますが、大きく捉えれば、あれも記号化された数字を使っていますから「デジタル」時計ということができますし、さらに、われわれの会話や本も「デジタル」と言えるのです。
記号化されたものは共通認識がないと意味を持ちませんので、その記号が何を意味しているかを共有しないといけないわけで、それを効率的に伝えるために多くの子どもに少ない大人が伝えるという、今の教育システムが出来ていったとも言えます。
しかし、昔の職人文化では「見て覚えろ」と言われるように、師匠が弟子にいちいち言葉で説明することはあまり見受けられなかった。それどころか、何にも教えてくれないなんてことも普通にあったようです。
僕は整体師ですが、修業時代に先生の施術を見ていたらカーテンを閉められ、そのあと「さっきのやってみな」と言われたこともあります。
もちろん、今の時代にはそぐわないことは百も承知ですが、言葉や数字、画像や映像を介さずに、師匠と弟子が教え学び合うということは記号化されたことで漏れてしまうものまでもすくいとることになるのではないでしょうか。
僕が学ばせてもらっている中国武術の韓氏意拳では先生が生徒の手を直接持って指導してくださいます。そうすると、ダイレクトに言語化、数値化できない情報が伝わってきて「なんだこれ?」となるんです!
宮崎駿監督の描き方で全身がブルブルってなる表現がよく見られますが、まさにあんな感じ。
細胞レベル(いや量子レベル?)で驚くんです!
デジタルネイティブとも呼ばれる今の子どもたちには、そんなダイレクトな記号化されない「アナログ」な経験をしてもらいたいんです。子どもたちが自分のからだを通して、そんな驚きをたくさん味わってもらえるような場を作ってあげたいという思いもあり、バランスからだ塾はあるのです。
長嶋さんがバランスからだ塾を見たら何て言ってくれたかな。
「ここの子どもたちはキッズらしくていいですねぇ~」
「バランスですか。いわゆるひとつのバランスなんでしょうねぇー」
僕の親父と誕生日が3ヶ月弱しか違わなかった長嶋さん。
天に召されたのも約3ヶ月違い。
戦後に子ども時代を過ごした世代。
たくさんのことをアナログで身に付けて育ったんでしょうね。
そりゃ、「バーン」とか「ブーン」とかになります。
だってそうじゃなきゃ伝えたいことが伝わらないから。