2025 帰省の旅 東京編 前編

令和7年1月7日、久しぶりに正月を過ごした(と言っても4日からだが)故郷を離れ、郡山駅9:30発のやまびこ128号で東京駅へ向かう。東京駅では山陽新幹線には乗り換えず、神田明神へ参拝するため、中央線に乗り換え御茶ノ水駅へ。

在京中、古本街へ行くのにお茶の水橋口はよく利用していたけど、聖橋口に出るのは2回目か。駅舎が新しくなっていて、なおさら方向が掴めない。そこは、おそらく神田明神へ参るのだろうと思われる、ちょっとピシッとした、でも正月感も拭いされない雰囲気の経営者と思われる数人のグループが目に止まり、後を追うことにする。
酸化した銅板の立派な青い屋根が線路向こうに見えた。
「あれか?」
しかし、後を勝手について行っている先ほどのグループはその横を素通り。
「違うのか?ならあの建物はなんだ?」
交差点には「湯島聖堂前」の表記。
聖橋口に出ることは在京中もほとんど無かっただけではなく、聖橋を渡り神田川を越えて北に行くのは初めてだった僕はここに湯島聖堂があるのを初めて知った。
立ち寄りたいけど、まずは神田明神。
旧中山道の国道17号線を渡ると、人だかりが見えた。もう、そこは江戸総鎮守神田明神。甘酒の香りに誘われながら、こちらも青銅色の鳥居をくぐる。

参道の両脇には出店が立ち並ぶ。かつて田舎のお祭りで嗅いだ匂いに誘われながらも歩を進める。
経営者風のグループはいつの間にか見失っていたが、最近はインバウンドとか呼ばれるようになった外国人観光客もスーツ姿の中に多く混じる。
極彩色の随神門をくぐる前に、門の左手にある手水場へ。
すると、正月限定だという花手水。手水鉢に赤、黄、ピンクの花がびっしり浮いている。
門に負けず劣らずのカラフルな手水場に心が躍り、お清めをする前にパチリ。

口手を清めた後、随神門をくぐる。
世間は昨日1月6日(月)が仕事初めで、ビジネスマンが大勢神田明神に参拝する様子を実家のテレビニュースで見たが、今日もまだまだ人が並ぶ。
よく行く家族連れが多い初詣とは空気感がちょっと違う。試合前のベンチ裏のような感じと言えば分かってもらえるだろうか。いや、それから不安感を取り除いた感じと言ったほうが正確かもしれない。

僕は特に理由はないが、横幅広く並んでいる列の1番右端、カラーコーンが置いてあるギリギリのところに並んだ。
だんだん賽銭箱に近づく。
お賽銭は千円と決めていた。
これには理由がある。
妻の会社名は「千年美容」という。
何かにつけて1000という数字にすることになってきている。もちろん暗証番号にはしないが。
去年新札になった北里博士が描かれた折り目のないお札を用意し、順番が来るのを待つ。
ちょっと待て!
賽銭箱の前が通路になってて、とても新札は投げ入れられないではないか!
どうりで硬貨を投げ入れる軌道が後ろからも見えたわけだ。
そのくらい微妙な距離がある。
おい、どうする?
小銭にするか?
いや、せっかく途中下車までして、ここまで来たからには千円にしたい。
それなら、500円硬貨2枚にすればいいんじゃないか?
それは名案だ!
財布の内側のファスナーをあける。
500円硬貨が一枚もない無い。
硬貨を全部足しても到底千円にはならない。
さあ、どうする?
順番が来た。
目の前の警備員に少し汗ばんでしまった千円札を見せて、
「ちょっと入ってもいいですかね?」
その警備員さんは間髪を入れずに、笑顔で頷いてくれた。
参拝が終わった人々が帰っていくための通路に2歩ほど入れさせてもらい、千円札を賽銭箱の端から擦り入れた。

普段は神社やお寺にお参りする時は「いつも見守ってくださり、ありがとうございます」とだけ言うのだが、今回はそれに加え、誓いを立てた。
それから一番小さな熊手を2つと、御札、そして今年が本厄の次女に厄除けのお守りを頂き、神田明神様を後にした。


そこからは来た道を引き返し御茶ノ水駅へ。さらに駅の南側を駅舎に沿って歩き、聖橋口から馴染みのある御茶ノ水橋口へ。新海誠監督の「すずめの戸締まり」で東北へ向かう出発点にもなった御茶ノ水駅、御茶ノ水橋口。新海監督ファンの次女に自慢するためにパチリ。

あとは楽器店とカレー屋が立ち並ぶ明大通りを南下すれば、靖国通りと交差し、もうそこは神田古書店街。学生時代にも行ったカレーの名店「エチオピア」で食べたかったが、ここに来たら長丁場になるかもしれないので、グッと我慢をし目星の本を探しに行くことにした。
今回のお目当ては岩波文庫のルソー著「エミール」上中下の3冊セット。それと武術系の古書。とくにこれといったものではなく、色々と見てみたかった。
まずは見つけやすそうな「エミール」から。「エミール」は岩波文庫の青帯。肌色の背表紙が並んでいるのが店内に見えたら片っ端から入って探すのだが、それがなかなか無い。白山通りを越え、専大通りまで来たが見つけられない。なんてことはよくある話。ここ神田古書街に来たらこの通りを何回か往復するのが当たり前。引き返す。途中、武術系の古書がおいてあるとネットで書いてあった店を発見!さっそく店内を散策するが、キャリーケースが他のお客の邪魔にならないかが気になり、古書店独特の狭い店内で心置きなく見ていられない。ここは小休止。すると、突然の尿意。この通りにはコンビニが無い。靖国通りの向こうにはあるが、こっちには無い。三省堂は解体の真っ最中。そうだ!書泉グランデにはきっとトイレがあるはず。店内の案内板を見ると5階にそれの印が!さっそくエレベーターで5階に行くとそこは鉄道関連書のみのフロア。僕にはそこまでの興味はない。それよりも急を要す事がある。有要有急な用事を済ませ、扉を開けると鉄道マニアの世界。当然のごとく素通りし、早く現場に戻らねば!と思ってエレベーターを待っていた時、ふと「金ちゃん」を思い出す。「金ちゃん」とはこれから夕方にお邪魔することにしている、僕が新卒で就職したスパゲティーの個人店のオーナー、松っちゃんの愛息子のことだ。金ちゃんが鉄道が大好きなことは松っちゃんの投稿で知っていた。用だけ済ませ、素通りするのは申し訳ない。金ちゃんへのお土産をここで探そう。それが沼の始まりだった。見出したら悩む悩む。
「これは持っているかもしれない」
「ありきたりではカッコ悪いし」
「ここまでマニアックだと引くかな」
「これいいけど、かなりの予算オーバーだなあ」
などとやっていると、もうどうにもこうにも、全然決まらない。いや、ここまで悩んだのだから簡単に終わらせてはいけない。などなど1時間以上やっていたら、やっとみつけたオモシロ低予算グッズ!特急サンライズの車内でもらえるタオルと歯ブラシのセット、復刻版。金ちゃんが特急サンライズを知っているかどうかはもうこの際、問題ではない!これはなかなか手に入らないマニア向けの超ニッチ商品だ!と良いお土産を見つけた喜びと、この自ら入り込んでしまった沼からの脱出との二重の喜びで、書泉グランデからようやく出れた。

もうお昼ごはんを食べている時間はない!今の流れなら見つかるはず。と思ったら、すぐ近くの店で三冊まとめて紐でくくってある「エミール」を発見した。さっきも見たはずなんだけど、さっきは見つからなかった。こんなことはよくある話だけど、すごく興味のある話。本当はさっきはなかったかもしれない。いや、あったけど目に入らなかっただけだ。いやいや、目に入っていたのに気づいていないだけだ。いやいやいや、目に入り、気づきもしたのに、手を伸ばさなかっただけだ。
でも、今はそんなことはどうでもいい。本の状態も価格も期待以上。すぐさまレジにいく。すると500円以上買った人には飲み物をくれるという。なんていい店で見つけたんだろう。ちょうどコーヒーで一息入れたいところだったのだ。こんなときは狭い階段でもヒョイヒョイとキャリーケースを持ち上げ、カップ式自販機がある2階へ上がる。2階は映画、写真、美術などの本がおいてある。1階では気づかなかったのか流れていなかったのか知らないが、いい感じのレゲエが耳に届いた。サービス品の自販機のカップコーヒーがちょっと美味しく感じた。

<その2に続く>

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